大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和42年(オ)209号 判決 1969年7月25日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人小牧英夫、同東中光雄、同仲重信吉の上告理由二の(一)について。

民法一一二条が規定する表見代理が成立するためには、過去に当該代理権が存在したことを要することは所論のとおりであるが、この点について原判決を検討するに、原審は、上告会社が電気水道暖冷房等諸工事の請負を業とする株式会社であること、上告会社が昭和三五年七月本店を大阪市に移転して防府支店を設けてから右支店を廃止した昭和三六年六月にいたるまでの間、訴外羽嶋菅男が右防府支店長の地位にあつたこと、本件請負契約は、右支店が廃止されたのちである昭和三七年六月三〇日羽嶋菅男が右支店長として被上告人との間に締結したもので、これは羽嶋菅男が上告会社防府支店長の名義を冒用したものであることを適法に認定判示しているのであつて、右判示部分によれば、原審が、羽嶋菅男にはかつて本件のような請負契約を締結する代理権があつたことをも認定判示しているものであることを看取することができる。それ故、論旨は採用することができない。

同二の(2)について。

民法一一二条の表見代理が成立するためには、相手方が、代理権の消滅する前に代理人と取引をしたことがあることを要するものではなく、かような事実は、同条所定の相手方の善意無過失に関する認定のための一資料となるにとどまるものと解すべきである。したがつて、所論の見解には賛成し難く、論旨は採ることができない。

同二の(3)について。

原審は、原判決の理由の二の4において、一般に取引の相手方が本件代理権の存続を誤信するにいたるのが相当と思われる諸事実を認定し、これを右理由の二の1の事実と総合して、被上告人は、本件請負契約を締結した際、なお羽嶋菅男が上告会社の防府支店長として同会社を代理する権限があると信じていたものと認定されると判示し、結局、前示表見代理の成立を肯定しているのである。そうすると、原審は、右説示の中で、とくに無過失の文字を用いてはいないけれども、被上告人において本件代理権があると信じるについて無過失であつたことをも認定判示しているものと解することができ、右認定判断は、挙示の証拠に照らし肯認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下村三郎 裁判官 田中二郎 裁判官 松本正雄 裁判官 飯村義美 裁判官 関根小郷)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例